ぼくの大切な友人でもある優秀なエンジニアが、マネージャーを引き受けることになったと聞きました。いろんな事情がありなかなか大変な決断だったらしいのですが、どうせやるならがんばってほしい、うまくいってほしいという老婆心を(おっさんなのに)発揮して、ぼくが初めてマネージャーになったときのことを思い出しつつ、勝手にアドバイス的なことを書こうと思います。

自社でWebサービスを運営する会社の開発チームのマネージャー、という前提で書いています。

読むといい本

はじめての課題に挑むとき、賢い人は先達の知恵が詰まった「書籍」による知のショートカットを試みます。読んでおいて損はない2冊を紹介します。

新版 はじめての課長の教科書

ベタなタイトルですが、「マネージャーになるとはどういうことか」を一般論で語ってくれるわかりやすい本です。まずは読んでおいて、会社や環境に合わせて理解を修正していくとよいでしょう。


チームが機能するとはどういうことか

「チーミング」「プロセス知識スペクトル」「心理的安全性」という重要ワードが出てくる本です。チームで問題解決をするのが主なミッションであるソフトウェア開発において、避けて通れない考え方が紹介されています。


こころがまえ

よく居酒屋のトイレに貼ってある小言的なやつです。老婆心を燃料に、いままでいろいろ考えてきたことを要約してみます。

マネージャー最大の仕事はメンバーの給料を引き上げることだ

マネージャーの仕事につく細かいラベルは無限に存在しますが、源流まで遡るとここに行き着きます。メンバーに成果を出させ、それを交渉材料にメンバーの給与を引き上げること。このゴールがブレると、メンバーもマネージャーも不幸なことになることが多いように思います。

チームのミッションを説明し、それぞれのメンバーに期待する役割と成果を設定し、それを達成できるようサポートする。メンバーがあげた成果を可視化し、給与を決定する場での説得材料を作る。これらがマネージャーの仕事です。

メンバーの給料を引き上げられるマネージャーであれば、自らの評価も押し上げていくことができるでしょう。

自分を守れるのは自分だけ

マネージャーになるとつい張り切って「メンバーを守るのがぼくの仕事や!!!!!」などとなりがちです。もちろんリーダーとしてメンバーを外圧や理不尽から守るのは大切な仕事ですが、そこが行き過ぎて保護者マインドを持ってしまうとお互い不幸になります。

メンバーを守るのが仕事ではなく、自分を守れるメンバーを育て、メンバーが自分を守るのをサポートするのがほんとうのマネージャーの仕事です。期待する役割と成果をきちんと伝え、それを達成するためにサポートする意思があることを伝えたら、あとはメンバーが頑張り、問題や困難に出会ったら自分で判断する。メンバー自身では解決できないことを補助し、一緒に解決に導く立場としてのマネージャーであるべきです。

そして、マネージャー自身を守るのもマネージャーの仕事です。チームだけではなく自身の負荷を把握しコントロールできることが求められます。さらに言うと、せっかくモチベーションを持ってマネージメントに取り組もうとする新任マネージャー(きみのことだ)が自重で潰れていくのは、マネージャー自身にとっても会社にとっても大きな損失なのです。

メンバーには「自分で自分を守る」という意識を持ってもらう。マネージャー自身も「自分で自分を守る」という意識を持つ。これがマネージャーとして重要な仕事であり、強いチームに必要なマインドセットでもあります。

期限があるタスクを持つと死

これはぼくの経験から思ったことであり、うまくマルチタスクとオーバーワークを回せるマネージャーには当てはまらないかもしれません。

プロジェクトにたくさんのタスクがあり、見積もりをすると現存戦力では期限に間に合わない。そんなとき「プレイングマネージャー」という言葉を思い出し、マネージャー自身がタスクを自分にアサインしてしまうことがあります。しかし、たいていの場合これは悪手となります。

見積もりが溢れた分を現実的な見積もりで自分がカバーする。不慮の事態がこれ以上発生しなければ、それは妥当な判断と言えるでしょう。しかし、マネージャーのタスク消化をアテにしなければならないようなプロジェクトの場合、第二第三の「不慮の事態」は高い確率で発生します。そのとき、マネージャーが目の前のタスク消化で手一杯だったら、いったい誰が次の「不慮の事態」を捌くのでしょう?

マネージャーには「自分のリソースはボーナスだと思う」スキルが要求されます。最前線に乗り込むのは最後の手段としてとっておきましょう。

まとめ

ソフトウェア開発チームのマネージメントという仕事は、大変で、重要で、そして面白い仕事でもあります。マネージャーになる・ならないの選択肢が提示された状況で「なる」ことを選んだのは、その理解と覚悟があったんじゃないかな、と思います。

がんばってね。困ったことがあったら、いつでも呼んでね。